設計

最低限確保しておきたい耐震性能

2024年、お正月は思いもしない災害や事故が連続して発生しました。
この度の震災により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
被災された皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

震度が大きかった地域では、古い木造住宅の倒壊が多く見受けられました。
現時点で建物の形が残っていたとしても、おそらくですが、住み続けることは困難になる「中破」「大破」と呼ばれる被害が生じているように見受けられます。

今回は、地震が発生した際の応急危険度判定、耐震性能など、災害に関係する住宅の知識をお届けしようと思います。

市内にある住宅約6000軒のうち、2018年度末までに国の耐震基準を満たしていたのはわずか51%とのこと。全国の耐震化率(87%)と比べて、極端に低かったとあります。
昨年も大きな地震があり、その際に行われた「応急危険度判定」において「危険」と判定した住居が361棟、「要注意」が689棟もあったそうです。

「危険」と「要注意」を合計すると1000軒となるので、おそらくですが、危険と分かっていても、仕方なく住み続けていた方が多かったのではないかと推測されます。

応急危険度判定とは

まず「応急危険度判定」について簡単に説明しておきたいと思います。

大規模地震が発生した後、大きな揺れを受けている家は何かしらの構造的な被害が生じている可能性が高くなります。

被害の内容を判断するために「応急危険度判定」というものが行われます。
神奈川県の応急危険度判定について

「応急危険度判定」は、地震によって被災した建築物の被害状況を調査し、余震等による建築物の倒壊、部材の落下等から生ずる二次災害を防止し住民の安全を図ることを目的として行われます。

判定の結果、三段階に区分した「判定ステッカー」が建築物の出入り口などに貼られます。

調査済:緑

要注意:黄

危険:赤

基本的に応急危険度の判定は、自治体の建築主事となる公務員が行います。自治体の被害が広範囲に及ぶ場合は、他県にも要請が入り他県の建築主事が応援に入ります。

阪神淡路大震災や東日本大震災のような、大きな震災で被害地域も広範囲に渡る場合には、自治体の人員だけでは間に合わないため、我々のような民間の建築士にも応援要請が来ます。

私も応急危険度判定士の講習を受け、応急危険度判定士の登録もしています。

応急危険度判定士になるには

応急危険度判定士になるには、応急危険度判定講習を受講して、県にボランティアとして認定・登録される必要があります。認定されるには建築士や建築施工管理技士などの資格や経験が必要です。


この応急危険度判定はできるだけ早く、たくさんの家を「安全か否かを判断する」ための調査のため、基本的に外観調査を主とした地震直後における短時間の調査となります。

建物内部に入っての詳細な調査とはならず、外部からの目視検査がメインの調査です。
応急危険度判定の結果はあくまで判定結果ですので、「危険」や「要注意」の診断があったとしても、法的に住み続けるか否かは、所有者の判断によります。

行政などが強制的に退去させることはできません。
「要注意」「危険」と判定された家は次の余震に耐えられない状態となっています。

もしも家の中に立ち入る場合は、ヘルメットなどの防具を身に着けて、余震に注意しながら重々用心して短時間入るようにしていただければと思います。

普段の生活において、地震に対しての家の強さを判断するにはどうしたらよいのでしょうか。
それが各自治体が行っている「耐震診断」です。

横浜市の事例はこちらです。
診断は無料ですが、条件もあります。

基本的には、昭和56年(1981年)以前の建物つまり新耐震基準ができる前に建てられた家が対象です。
まずは耐震診断を行って、ご自宅の耐震性能を把握しておいて頂きたいと思います。
耐震診断の結果、点数(上部構造評点等)が1.0未満の場合は、現在の建築基準法の基準を確保できていないということ。

評点が1.0未満の場合は、迷うことなく耐震補強を行って欲しいと思います。

自治体にもよりますが、何かしらの支援事業があります。

横浜市の事例では、補助額は最大で100万円とかなり寂しいものではありますが…。

問題になるのは、新耐震基準の施行以降の1981年以降に建った家です。
1981年に施工され新耐震基準を満たしているはずの家の場合、耐震診断の評点が1.0に満たない家がたくさんあります。

理由として、「4号特例」という審査の省略を勘違いした設計者や住宅会社がしっかりと構造検討を行わないままに建てられた家がたくさんあるからです。

4号特例は、来年の春に撤廃(正しくは縮小)されます。

グレーな期間に建てられた4号建築と呼ばれる家のすべてに耐震診断を行っていただきたいです。

ちなみにですが、1981年以降に建った家も自治体の助成はありませんが、耐震診断を受けることは出来ます。
現在の家の耐震性能を知っておくことは大事なことです。耐震診断の結果、評点が1.0を上回ったとしても、大きな地震の際に住み続けられるわけではありません。

この評点1.0は乱暴に言うと、建築基準法の最低基準と言えます。
「倒壊しない」という基準が建築基準法で定められた基準です。


耐震等級について

皆さんもご存知の通り、耐震等級には等級1、等級2、等級3と3つのグレードがあります。

耐震等級の違いは、今回のように大きな地震があったときの「建物の被害の差」につながってきます。


大地震時の損傷状況

損傷ランクⅠ(軽微)Ⅱ(小破)Ⅲ(中破)Ⅳ(大破)Ⅴ(破壊)
損傷状況建物の傾斜層間変形角1/120以下

残留変形なし

層間変形角1/120~1/60残留変形なし層間変形角1/60~1/30残留変形あり層間変形角1/30~1/10倒壊は免れる層間変形角1/10以上倒壊
基礎換気口廻りのひび割れ小換気口廻りのひび割れやや大ひび割れ多大、破断なし、仕上げモルタルの剥離ひび割れ多大、破断あり

土台の踏み外し

破断・移動あり

周辺地盤の崩壊

外壁モルタルひび割れ微小モルタルひび割れモルタルの剥離モルタル、タイル脱落モルタル、タイル脱落

建具・サッシの破損、脱落

開口部隅角部に隙間開閉不能ガラス破損建具・サッシの破損、脱落建具・サッシの破損、脱落
筋かい損傷なし損傷なし仕口ズレ折損折損
パネルわずかなズレ隅角部のひび割れ

一部釘めり込み

パネル相互の著しいズレ

釘めり込み

困難面外座屈、剥離

釘めり込み

脱落
修復性簡易簡易やや困難困難不可
壁量目安第1種地盤品確法 等級3品確法 等級2建築基準法×1.0
第2種地盤品確法 等級3品確法 等級2建築基準法×1.0
第種3地盤品確法 等級3建築基準法×1.5建築基準法×1.0
耐震診断評定目安上部構造評点>=1.5上部構造評点>=1.25上部構造評点>=1.0上部構造評点<1.0

(参考「ヤマベの木構造」より)


壁量目安の「第1種地盤」とは、状態が比較的良好な地盤を言います。
今回の能登地方のように震度6強や震度7の大地震に見舞われた場合「建築基準法×1.0」つまり耐震等級1の場合には「Ⅲ(中破)」となっています。

「修復が困難となり、ただちに避難をしなくてはいけない」状態です。
これが「建築基準法×1.0」つまり耐震等級1の耐震性能を有した場合の被害予測となります。
もしも耐震等級2を有していた場合、同じ大地震でも「Ⅱ小破」という「一部修理すればとどまることが出来る」状態になります。

そして耐震等級3を有していた場合には、「Ⅰ(軽微)」という、なにもせずともそのまま家にとどまることが出来る状態に抑えることが可能です。
大地震に見舞われた際に「そのまま住み続けることが出来るか、補修しなければならないか」の差になってきます。

上記は比較的良好な地盤とされる「第1種地盤」にご自宅がある場合となります。
地盤の緩い「第2種地盤」や「第3種地盤」の場合には、被害が1ランク、または2ランク大きくなります。
「第3種地盤」だと、等級1の耐震性能のお家では「倒壊」してしまい、大事な家族の命を守れないのです。

緩い地盤に建つ家の場合には、耐震等級は「等級2」以上にしておく必要があります。
現在の耐震基準は、大きな地震が1回起きた場合に耐えうる性能を持たせたもので、複数の大地震に耐えるように定められた基準ではありません。


「想定外」のことが普通に起こる世の中です。


複数の地震にも耐えられるよう、耐震性能だけはしっかりと確保しておいていただきたいと思います。

耐震性能の差は「そのまま家に住み続けられるか否か」の差になるため、「耐震等級3」以外の選択肢が無くなることが分かると思います
被災後の調査は他にもあるので、次回のコラムにて解説したいと思います。


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