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耐震改修工事とは?意味がない耐震補強に注意

工務店向けに「建築知識ビルダーズ」という雑誌があるのをご存じでしょうか。最近では一般の方も読まれていることが多いようで、建築の打ち合わせでお客様の自宅に置かれているのを拝見することが増えました。

頻発する地震に対する備えとして、耐震改修工事のニーズが高まっており、建築知識ビルダーズNo.52では、建築基準法ができる前の明治11年に建った建物のリノベーションも紹介されています。

建築基準法は1980年に改正されているため、築年数が古い建物だと耐震補強工事は簡単ではありません。注意点もたくさんあります。

今回は、耐震改修工事の基本や工事ができる住宅会社の条件、注意すべき業者の存在について解説しようと思います。

耐震改修工事とは

耐震改修工事とは、地震で揺れたとしても建物が倒壊しないことを目的に施す工事です。耐震基準は、建築基準法で定められています。

1980年に建築基準法が大きく改定されていて、それ以前の基準で建てられた建物は相当な補強を行わないと現行法に合わせることはできません。

1981年以前の耐震基準は「旧耐震基準」、1981年以降の基準は「新耐震基準」と呼ばれています。築40年以上の建物は旧耐震基準で建てられているため、耐震補強を行うことは簡単ではありません。

「築年数が経っている住宅は耐震改修工事が困難に」

築40年以上経っている住宅は、現状の耐震基準ではなく、その前の基準で建てられてしまっていますので、まず基礎の耐力がありません。そのため、基礎の補強がどうしても必要になります。

耐震壁といって、耐震のための筋交いの金物を現行法のモノに入れ替える必要があり、

柱の引き抜きのための金物を追加する必要があります。

基礎の補強と金物の追加をするために、「スケルトン」と呼ばれる骨組みの状態まで解体しないとならなくなります。

そうなると建て替えるのと変わらない工事金額となってきます。

築40年以上となるような建物は、そもそもの建物全体の耐力が弱いものなので、耐震改修する場合には全体をバランスを取って改修する必要も出てきます。

一部の壁や屋根だけ改修してしまうと、全体でのバランスを崩してしまうことになり、かえって壊れやすくなる可能性もあるのです。

耐震改修工事に必要なもの

耐震改修工事に必要なのは以下の4点です。

  • 現状の状態の把握
  • バランスのよい補強計画
  • 適切な補強金物
  • 丁寧な補強工事

耐震改修は、既存建物の耐震診断を行った上で、バランスよく耐震補強計画を行って、適切な補強金物を用いて、丁寧に補強工事を行っていくことが必要です。

このように耐震改修を行うには現状の状態を把握し、バランスのよい補強計画を立て、適切な補強金物、丁寧な補強工事が必要となるのです。

ただ現状では、これらがなされていない工事も多く見受けられます。

悪徳リフォーム業者に注意

近年、悪徳リフォーム業者が急増しており、被害が後を絶ちません。一見親切なふりで悪質なリフォームをすすめるのが手口です。

訪問営業のリフォーム業者でまともなところを聞いたことがありません。家守り工務店として付き合いのある人以外に家のチェックをしてもらうのはやめましょう。

特に突然訪問してきたような人を屋根の上に上げたり、床下に潜らせたりしては絶対にいけません。あることないことを言ってきて不安をあおるようなことを言ってきます。

正しい耐震改修工事ができる住宅会社は訪問しない

そもそも耐震診断から適切な耐震改修方針を立てられ、正しく耐震改修工事ができる住宅会社さんは行列ができており、工事着手までにはある程度の待ち時間が生じます。

特に正しく耐震改修工事を行うには、墨付け刻みと呼ばれる技術を持って、耐震のことを理解した大工の手が必要なのです。

年々、大工の人数も少なくなってきているので、腕のよい大工を確保している住宅会社も限られてきます。

誰でもできる工事ではないため、大工の手の空きを待っての着手となる場合が多くなります。お待たせしてしまっている状況ですから、訪問営業する理由も必要性もありません。

意味のない耐震補強工事の事例

以前に雨漏り調査の依頼を受けてお伺いした築50年のお家の小屋裏の様子を見てください。お伺いしてスタッフが小屋裏を覗くと、おびただしい数の補強金物が出てきたのです。

なんの役に立ちそうにない複数の撹拌ファンも設置されていました。

本来ならばここまでごつい金物は、柱や梁に貫通の穴を開けて両側からボルトで引き寄せて固定するものなのですが、コーチボルトと呼ばれるネジの大きいもので留められてしまっています。

無理やり太いネジで留めてしまっているので、柱(束)や梁に割れが生じてしまっている箇所もありました。

この補強金物を設置したのは訪問営業のリフォーム会社で、まったく構造に関係ない部分まで金物で補強されてしまっています。

設置しやすい場所にだけ設置されており、構造計算などはまったくされていないことは明らかです。

効果のない金物を大量に取り付けられ、しかも割れが生じているため、元よりも耐力が低下しています。

基礎や壁などの補強は行われていないため、逆に小屋回りが固くなり、大きな地震の際には屋根がおもりのような動きになるため、1階や2階を押しつぶすような形で倒壊する可能性もあります。

このように、素人と言ってもいい業者が行った耐震補強は大変危険です。しかも費用も相当高額になるのです。

耐震改修工事は家のことを理解している会社に依頼しよう

耐震補強工事を行う場合は、その家を設計した設計事務所や施工した工務店に依頼するのが間違いありません。

家のことが分かっている住宅会社に依頼するようにしてください。

正しく補強計画がされて、正しく工事がされたお家は、耐震性能が向上するだけでなく、断熱性能も向上し、居住環境が良くなることもあり、長く住み続けていただくことも可能となります。

参考までに過去にリノベーション工事を行ったお家の一部をご紹介しておきます。上が作業中、下が完成した家の画像です。

リノベーション工事を行っていると、内側の壁や外側の壁を外すことも多くなり、普段見えない部分が見えてくることになり、古いお家の耐震補強工事の際には「開けてみてびっくり」と言うことも多々あります。

リノベーション工事を行う住宅会社には、そんな「開けてみてびっくり」なことにも対応できる知識と経験が必要となります。

たとえば「コミコミの価格」で契約する業者では、追加の費用を言い出せないこともあって、現場で追加対応が必要な際でも「見なかったことにする」ことがルールになっていると聞きます。

そんなことでは、安心して住み続けることはできないでしょう。

事前にすべてを調査することはなかなか難しい場合もあります。フルスケルトンでのリノベーションやある程度の規模の改修工事を行う際には、費用的にも工期的にも余裕を持って取り組んで頂く必要があります。

正しい耐震改修工事をすると長年快適に過ごせる

正しい耐震改修工事をすると、長年快適に過ごせるようになります。あすなろ建築工房では、そういった事例もあります。

築50年を超える古いお家に、高齢のお母様がお一人でお住まいでした。もともと店舗だった建物で、奥の台所と2階の和室の一部だけで生活されていました。

寝るときには、とても急な階段を上って2階に上がる必要があり、高齢のお母様には大変危険な状況でした。

もともと店舗だったこともあり、道路に面した側の耐震壁が明らかに少なく、耐震的にもかなり問題のある状態です。断熱材がないスカスカの外壁で、冬は相当な寒さが悩みで、温度差もあり、大変危険な生活をされてきました。

そこで、建物の内側に新たに骨組みを追加し、強度と断熱性能を高め、1階のみで安全に生活できるように計画しました。

「家の中にもう一つ家をつくる」ような感じです。工事を行って7年が経ち、お母様はさらにご高齢になられていますが、今でもお元気にお一人でお過ごしでいらっしゃいます。

耐震改修工事を行うには、本当に正しい知識と多くの経験と的確な技術が必要となります。

誰でもできる工事ではないため、見極めを行ってから依頼をするようにしていただきたいと思います。


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