2019年5月1日 学習・研鑽

住まいの基本を考える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在人気の建築家である堀部安嗣さんの新しい著書が届きました。

 

早速、拝読させていただいたのその感想です。

 

これまでの堀部さんの住宅作品は、風土や地域に適した空間と厳選された素材を用いることによる居心地のよい住まいのイメージがあります。この本で紹介されている住宅作品は、そこに「環境性能」の視点が追加されたものではないかと感じました。2016年に開催された「里山住宅博in神戸」でのヴァンガードハウスの設計の過程で、堀部さんが高気密高断住宅の優位性を知り、この数年間で「環境性能」を具象化してきたことの報告的な内容ではないかと感じました。

 

掲載された作品のいくつかは、幸運にも実物を拝見する機会に恵まれました。この本では作品の写真だけではく、プランとその後の住まい方、住まい手の感想なども知ることが出来、再訪したかのように身体にスッと入ってくるものでした。

 

以前に飲み会の席にて堀部さんと同席させていただく機会がありました。その席で堀部さんより「みんな、もっと真面目に設計をやろうよ」と叱咤頂いたことを思い出しました。本の中で「自然とつながらない色、模様のサイディングはまるで造花のよう。安いからいい、楽だからいい、枯れないからいい、情緒はいらない、そんな風に誰もが家をつくった結果、美意識を疑う造花だらけの風景になってしまった」と憂いていらっしゃいます。「どんな小さな家でも大切な日本の風景、文化の一部であることを誰もが認識して、日本の住宅の質をもう一度戻してゆかなければならない」と。堀部さんは誰よりも、今後の日本の未来、子供達の未来を心配しているのでしょう。設計に関わる身としては、今一度このことを肝に銘じていかなければならないと感じました。

 

以前に拝聴した堀部さんのご講演にて、設計者は「豊富な居心地の良い体験が大事である」ともお話しされていました。「設計の課程で、その自分が体感した記憶を呼び起こし、再現していく。それが建築である」と。そのためにもたくさんの良いものを見て、居心地の良さを体験することが必要とのことでした。暖かい暖炉の炎、京都の竹林の静けさ、バリのビーチサイドの波音、キャンプ場での焚き火の炎、これらの体験を形を変えて具現化していく作業こそが建築であると。誰かの真似をするのもよいが、その体験が自分自身のものなのかどうかが大事であるとのことでした。この本でも分かることですが、決して、堀部さんが特別な能力を持って居る訳でなく、皆と同じように感じてそれを形にしているということ。古い寺院や土着の民家から得て感じたことを一つ一つ真摯に取り入れ、形にしているだけなのだと、その差は感性の差であるのだと再認識しました。

 

これから住宅を建てようとしている住まい手の方はもちろんのこと、住宅設計者にこそ読んで欲しい一冊と思います。
 



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